Berkeley

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羽田澄子「山中常盤」を観る

2008年11月10日17:00

今日も夜は映画。帰りに「夕食」と称して、3.5ドルの巨大な「ベジタリアン・ピザ」を食べるのが癖になっています(危険信号)。

今日は羽田澄子の「山中常盤」(2004年)でした。ぼくは羽田監督の映画は実は初体験でした。

今日も結論から。

すごい!おみごと!
一言でいえば、「ゴージャス」です。

17世紀江戸初期に活躍した絵師、岩佐又兵衛が描いた「山中常盤」という実際の絵巻(全12巻)を素材に、それに古典浄瑠璃の音楽と語りをつけて、絵巻の中の物語、そしてその絵巻がつくりだされた歴史のドラマを同時に描いてゆくという作品です。

「常盤」は、「常盤御前」すなわち、源義経の母です。物語では、彼女は生き別れになった義経(牛若丸)を追いかけて京都を出るのですが、途中の山 中宿で6人の強盗に襲われて身ぐるみはがされ、しかもお付きの女中とともに惨殺されてしまいます。その仇を、子どもである牛若丸が討つというストーリーで す。かつて江戸の庶民が、夢中になって人形浄瑠璃の語りを聴いていたように、21世紀に生きる私も、終始ドキドキしながら、ストーリーを追いかけていまし た。

この映画がズルイのは、そもそも素材が超一級品であるということです。これでいい作品ができないわけがない、という感じです。又兵衛の実物の絵は、本当に鮮烈で、力があります。惨殺のシーンなど、現代の特撮映画顔負けにリアルです。

それに、幽玄な音楽と語りが加わり、時空をこえて、物語が迫ってきます。語りは古語で、実際私にはわからないことが多く、その場合は、英語の字幕 で意味を確認するという始末です。英語の字幕を遅れ遅れ追いかける自分は、過去の日本とも、今のアメリカとも切り離されているようで、なんとも情けないと いうか、切なかったのですが。

血で血を洗う無常な時代や現実から、しかし道徳としての「恩」や「忠義」や「義理人情」が浮かびかがってくる。非常に単純な内容ですが、絵と音と 語りの力で、本当にドラマチックに観る者を飲み込んでいきます。邦楽の音で、これほど興奮したのは初めての経験でしたし、邦楽がいわばJAZZのような開 放的なリズム感があることを発見し、驚きました。

民衆がつくりあげた義経神話は、弱肉強食の戦国史の中で不本意に滅んでいった無数の命への鎮魂がつくりだしたものだと強く感じました。つまり、私が取り組んでいる「平和学」と同じモチーフがあるのかもしれません。

映画では、実際に織田信長に母親を殺された又兵衛が、一矢を報いるためにこの絵巻を書いたのではないか、とされていました。又兵衛は、武士になる ことをやめ、絵師になることを決意し、「山中常盤」を描きました。筆の力で野蛮な力に復讐を果たそうとしたというわけです。この問題も、本当に興味がつき ません。

日本は今、まったく元気がありませんが、打開のヒントは案外、こういった民衆が培ってきた神話や素朴な正義感にあるような気がします。芸術がもつ力を再認識させる、本当に洗練された、すばらしい作品でした。