学報102号
2/12

大学で学ぶ意義を考えよう第31 回新入生の皆さん、入学おめでとうございます。学長の越智です。教員としては政治学を教えています。ただ、こうしてはじめてお会いするときに言うのもなんですが、僕は大学に入ったとき、研究者になるつもりはまったくありませんでした。そもそも大学を受験したとき、何になりたいのかさえ決めていませんでした。さらには高校時代にあまりに遊びすぎたために大学受験にはすべて失敗し、予備校に通うことになりました。こうして自分の人生について何も決めないまま高校を卒業することになりました。ところが人生って不思議なもので、その予備校の授業でものを考えることの面白さの一端に触れることになります。あ、勉強っておもろいやんけ、と。予備校がどういうところかというと「行った人にはわかるけれど、行ったことのない人にはまったくわからない」という場所です。もちろん予備校生にとって唯一の目的は大学に合格することなので、それ以外のことは不要なはずです。他のことを考えずにひたすら勉強せよ、と。ところがこれもまた不思議なもので、ひたすら勉強するためには他のことというか、何のためにこんなことやってんのか、ということについつい触れざるを得ないんですね。僕ら人間は馬車馬とは違うわけで、その行為の目的とか意味、意義について認識しておかないと、それらの行為を実行できません。頭をカラにして勉強しろ、というのは無理があるんですよ。勉強って頭を使うことなんで、頭をカラにして頭を使えってできるわけないですよ。なので予備校で授業をする先生たちはどうしても、その科目を勉強することの意味というか、ものを考えるとはどういうことかを示さざるを得ないんです。ただそれらの示し方はいろいろで、授業中に直接表現する教員もいれば、各科目の講義内容を通じてそれらを示そうとする教員もいるでしょう。各予備校生がどちらから影響を受けるかもいろいろです。このあたりの実感についてはこのなかに浪人された方もいらっしゃると思いますので、わかる方も多いかと思います。僕の場合は圧倒的に講義内容でした。英語でも数学でも世界史でも、それらの教員はどのように点を取るのかというテクニックを教えるよりも、各科目の成り立ちというか、科目自体のなかにある他の科目との違い、特徴を話し、さらには自分がなぜその専門を選択したのか、ということまで伝えようとしていたように思います。それらのこと、つまりは各科目を勉強することの面白ささえ伝われば、各受験生は勝手に勉強してくれるわけで、そうなると予備校の教員としても楽です。しかし、おそらくは皆さんもお気づきだと思いますが、ここで問題がひとつ出てきます。なぜそのようなことについて僕は高校時代に気づかなかったのか、ということです。自分の高校の先生たちの名誉のために言っておくと、彼ら/彼女らが手を抜いちも各科目の意義とか目的とか、まじめに説いていたはずです。とすれば高校と予備校の差を感じたというのは、おそらくこっちの問題だったんだろうと思います。で、その違いというのは、その空間を自分で選んだかどうかということだったんではないかと今となっては思うわけですね。つまり高校まではそこに進学することが当然のように思っていて、ていたということではないと思います。高校の先生たどの高校に行くかは別にして、とにかく高校に行くのは常識である、みたいな考えの人がほとんどだったのではないでしょうか。そうなると高校の授業の意味をいちいち考えることがないのも当然でしょう。ところが浪人するというのは自分の判断だったはずで、親としてはもう大学落ちたんなら就職してもいいよ、ということだって言えたはずなんですね。ということは予備校に行くというのは百パーセント、自分の判断だったということになります。そうなるとその場所を自分で選んだという感覚が、どうしても自分自身のしていることの意味を考えさせるんでしょうね。なので高校時代と比べて、どうしてもその毎日受けている授業の意味を考えざるをえないのです。そして大学という空間はそうした意味や意義について考える度合いがもっと高くなります。先に言ったように予備校の場合は「大学に入る」というわかりやすい目的があるのですが、大学の目的というと、とてもわかりにくくなります。なので大学に入学するというのは、目的は不明だけれども、とにかくそこに入ることを自分で選択したということです。わかりにくいですね。でも皆さんはそういう場所としての大学に自分の判断で入ったのです。ですから皆さんは今日から大学で学ぶ目的と意義について自分で考えなければなりません。そしてそのことは大学で学ぶことだけではなくて、自分自身の価値や社会の価値について考えることでもあります。そこに大学の授業の難しさがあります。高校、予備校まで入学式       式 辞    2新潟国際情報大学 学報 国際・情報 令和6年4月発行 2024年度 No.1令令和和66年年度度新潟国際情報大学学長 越智 敏夫

元のページ  ../index.html#2

このブックを見る