現代国家の特質:政府機能の増大
その前提:権力の分化
市民革命後の近代国民国家の制度的特質(既述):主権の細分化
・三権分立:立法・行政・司法(機能的分化)
それぞれの内部も分化させる:二院制、省庁制、三審制
・地方自治(地理的分散)
・任期の存在(時間的安全確保)
・政党の存在(公と私の連関)
政府 government とは何か
政府:集団内の全構成員を拘束する決定をつくり、解釈し、執行する役割の集合(R・ダール)
・公的政府と私的政府:暴力の独占、「暴力の限界の決定権」の独占
・公的政府と中央政府
国家の統治機構
統治機構についての2種類の考え方
1.行政府、内閣のみ(ドイツ、日本):「君主の大権」行政権だけが強力であった
政府は議会と対立しうる
2.立法、司法、行政 (英、米):行政 administration
本授業では 2.<政府機能=国家の統治機能全体>として考える
cf.地方政府の問題:「政府間関係」
近代国民国家の変質:夜警国家から福祉国家へ
1. 夜警国家 nightwatchman state, Ferdinand Lassalle (1825-64)
19世紀 自由放任主義経済 laissez-faire(let do)
スミスAdam Smith 1723-90
「神の見えざる手」 自己利益の追求が見えざる手により社会全体の利益につながる
ブルジョア的私有財産の保護とその利潤追求に奉仕する
cf.社会進化論 social Darwinism
政府の任務を対外的防衛と対内的秩序維持に限定
限定された政治参加
・新興市民階級:労働者、農民層の排除
・限定された人間による合議:利害、価値観が一元的
・教養と財産をもった上層市民
・市民の理性
消極政府(政治)negative government
・必要悪としての国家
立法国家
・立法府の優越
・立法府の討論が政治の中心
安価な政府 cheap government
・財政規模の縮小
国家機能の衰退
20世紀的「夜警国家化」の極限:国家が他の集団と同等なものとして見られる
・「集団の噴出」20世紀初頭
・社会の分業化、組織化の進展:すべての人間はなんらかの集団に属する
cf.会社、労働組合、教会、地域集団、学校
・国家もそれらの集団のひとつである
・プルーラリズム(pluralism 政治的多元主義、多元的国家論)
<社会状況の変化>
大戦間における国家機能の増大:2回の世界戦争と大恐慌
経済恐慌
・資本主義経済の景気循環、景気変動
・景気変動:好況、衰退、不況、回復
大恐慌 the Great Depression, the Slump
・1920年代のアメリカ合衆国における資本主義の過度の進展
・消費ブームと第一次産業の不振
所得配分の不均衡:低所得者層の購買力の停滞
金融政策の不備と過剰信用制度による投機ブーム、土地ブーム(ex.フロリダ)
株式の反動 1929.10.24. ニューヨーク市場の暴落
経済崩壊
アレン『オンリー・イエスタディ』『シンス・イエスタディ』筑摩書店
ニューディール New Deal
近代市民国家(国民国家 nation state )の変質
外的要因による変質
・国際社会の成立による経済的・政治的変動
・国際関係を構築する唯一の主体としての国家が浮上
しかし相互依存、相互連関によって国家主権の可能性も拡大→国家間の不均衡
内的要因
・計画経済の必要性の発生
・政治における民主化
・都市化の進展
・サービスの増大
2. 福祉国家 welfare state
政府が社会政策、経済政策の実施によって積極的に国民の福祉の増進をはかる国家
広範な政治参加(しかし全員ではない)
・選挙や大衆運動による意志の表明
・利害、価値観が多元的
積極政府(政治)positive government
・New Deal
・「ゆりかごから墓場まで」from the cradle to the grave
ビヴァリッジ William Henry Beveridge
"Beveridge Report" Report on Social Insurance and Allied Services (1942)
国民保険法、家族手当法、国民扶助法、児童保護法、国民養老保険法など
実際の保障制度の実施は1948
行政国家 administrative state
・行政部の優位
・国家機能の拡大→専門的知識、技能の必要
アマチュアである立法部
官僚制度の充実
行政部による法案準備
法執行における自由裁量の範囲の拡大
委任立法 立法を行政部に委任
行政部による規則、命令、細則という「補充」
行政の政治化
サーヴィス国家(金がかかる国家)
・政府が国民生活を充実させようと奉仕する国家
・国民の受益者化
・国家機能の拡大
福祉による統合:利益政治、「田中政治」
「現代国家」、現在の「福祉国家化」をどう考えるか
新潟国際情報大学 国際学部 越智敏夫
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