<政治学>講義ノート 2024-3-4

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3-3 権力と支配

3-3-1 権力

人と人の関係として政治を考える
人が人を動かす:その力
社会的な〈力〉 cf.勢力,影響力,説得力

権力 power
人が他者をその意志に反して行動させる場合:人は権力を持つ
・制度化された強制力
政治権力の発生
・権力が暴力(身体への強制力)を独占し政治的権威(後述)を持つ場合
  そうでないもの:社会権力、勢力
・狭義:国家のもつ強制力、政治権力、国家権力
・広義:社会的力 cf. 家庭内政治、人間関係、権力志向型人間、企業内権力闘争

 「大文字の政治」と「小文字の政治」
 「政治 la politique 」と「政治的なもの le politique 」
    ジャン=リュック・ナンシー
 わたしたちの「存在」「共同性」への問いかけ

ニュートン力学 power 17-18世紀
物体の持つ力はその運動あるいは位置のエネルギーから生じる
 ↓
権力理解の方法(a、b)

a 権力の実体的理解

・権力者が手段や価値、根拠を所有することによって権力を得る
・権力手段、権力基底
・何が権力手段になるかは時代状況によって異なる
  能力(ポリス、哲人王、真善美)
  暴力の独占・集中(マキャヴェリ、常備軍)
  生産手段の所有(マルクス)

b 権力の関係的(機能的)理解

・権力者と服従者の具体的関係の中で権力は発生する
・権力の実体・手段・根拠が存在しなくても権力は発生する
・権力手段の所有ではなく環境、偶然によって生じる権力
  cf.ウェーバー「権力はチャンスの問題である」
    9人の委員会が4人ずつの党派に分かれたときの casting vote

権力の大きさとは何か
権力の<範囲、人数、程度、期間>の測定
 同じ権力手段を所有していても実際の権力には差が生じる
  歴史的に見れば範囲・程度が小さくなり人数が多くなる
   宗教と権力の分離、大衆社会の成立
 ロバート・A・ダール
  Aが自分の意図を知らしたときと知らせないときのBの行動の差

権力の実効性:服従の確保
 利益供与
 身体への強制力・暴力さえ、各個人の内面のイメージに依拠する
物理的暴力
物理的力の行使それ自体によってではなく、この力を認識し対応する主体を媒介にしてはじめて力が作用する
 多様な権力イメージの操作:見せしめ、威信の上昇、機密保持

機能的権力観の限界:一元的な権力の発生のメカニズムが理解できない
 権力の構造化、制度化のプロセスの解明が必要
権力の実体概念と関係概念をめぐる混乱
 権力概念は政治学上最も中心的な概念
 理論的に十分な厳密性を獲得するに至っていない
しかし、だからこそ私たち市民は「権力による完全な支配」から逃れることができる

政治概念の多様性⇔近代の政治認識における「権力」概念の一義的解釈(ネグリ)
 ヴェーバー:官僚主義的自由主義
 シュミット:全体主義的保守主義
 レーニン :ブルジョワ国家の消滅をめざす例外的な革命的契機を体現
 しかし「超越、奥儀」としての権力は共通する
 ネグリ「中間的解釈はない」

権力の三次元 スティーヴン・ルークス『現代権力論批判』(1974)
・一次元的権力
   ダール:実際の政治過程における権力行使の動態
   "The concept of power"(1957)
・二次元的権力
   ピーター・バックラック、モートン・S・バラッツ:非決定権力
   "Two faces of power"(1962)
   利害対立は他者からすべて見えるのか:観察不可能な領域
   何を政治問題化するかという権力:アジェンダの限定とコントロール
・三次元的権力
   ルークス:見えるもの・見えないもの
   観察可能性の批判 「行動論的」バイアス
   利害対立と権力の関係は絶対的なのか
   個人の「認識、信念体系、選好」の形成⇒権力の巧妙で陰湿な行使 三次元的
   2nd ed., 2005 での著述:権力=能力 or 行使(ちゃぶ台返し?)

マルクス:虚偽意識(イデオロギーのところで後述)
フーコー:近代社会によって作られた「主体」

現代社会における権力の変化
 M・ウェーバー
  政治権力独自の動態、国家の支配構造の問題
 C・W・ミルズ
  政治的支配階級が社会的支配階級としてのブルジョワジーと異なる
  権力組織の管理者「パワー・エリート」
   軍部・大企業・官僚:官軍産複合体
   エスタブリッシュメント
 D・リースマン
  権力の多元的存在、『孤独な群衆』
 H・ラスウェル
  社会的価値の多元化の結果多様な社会権力、勢力の形態が発生

政治権力固有の問題
 歴史的に見れば暴力を独占してなくても支配関係は成立する
 権威の成立

3-3-2 支配 rule
権力を媒介にして人間と人間の<継続的な>従属関係が作られる
 cf. 行為のレベルとしての<状況、制度、組織>

人間の従属関係における利益志向の同一性と対立性

利益志向の対立性  支配・被支配の関係  奴隷主と奴隷
利益志向の同一性  指導・被指導の関係  教師と生徒、親と子

支配:利益志向を異にする集団(あるいは個人)間にみられる従属関係
・継続的に優越的な関係
・行動様式を継続的に規定
・客観的に認知しうる程度の従属関係

同一の事象が並存する
・政治的支配層 ≠ 経済的支配層 ≠ 文化的支配層
・支配関係においても多元的

政治社会における支配
・少数者による統治
・治者(少数者)と被治者(多数者)の分化

M・ウェーバー 『職業としての政治』冒頭部第5段落〜
「すべての支配は、その正当性に対する信仰を喚起し、それを育成しようと努めている」
 支配の(内的)正当性 legitimacy の三類型 cf. 正統性 orthodoxy
 ・伝統的支配:「永遠の昨日」
 ・合法的支配:規則の合理性
 ・カリスマ的支配 charisma:非日常的で個人的な恩寵の賜物

 ・+(実際には)恐怖と希望:暴力と利益

管理社会における支配
・巨大組織集団が社会のあらゆる領域を管理
・政治的影響力も管理者層に集中
・管理も指導と同様に利益志向の同一性を前提とする
・管理機能の強調が管理者層と被管理者層との間の支配服従関係を隠蔽

支配服従関係を長期的に維持するには<服従する側の最小限の自発性>が必要
                  慣習、利害関心、信念に基づく

支配関係の脆弱性 cf.奴隷の反乱
 ↓
1 権力、富、名誉、知識、技能などの価値を分配することによって支配関係を多層化する
  :そのための機構の整備
2 支配を被支配者の心情のなかに内面化することによって服従の自発性を喚起する権威の必要性
 ↓
権威の問題へ


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新潟国際情報大学 国際学部 越智敏夫
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