第12回 公正の社会学
〜小宮山の研究〜



(小宮山智志)


目次

  • 1)第11回「吉田氏の情報の定義」補足
  • 2)公正の社会学
  • 3)参考図書


  • 1)第11回「吉田氏の情報の定義」補足


    情報の定義


    最広義:パタン(差異)一般

    広義:任意の進化段階の記号集合一般(生命の誕生以降)
        例:DNA情報・神経情報・言語情報

    狭義:人間レベルの記号情報(主にシンボル記号)

    最狭義:「伝達されて・一回限りの・認知的機能を果たし・意思決定を規定する・シンボル記号の集合」


    シグナル記号: 指示対象と物理・化学的に結合して、必ず指示対象を持つが「意味表象」を持たない記号。
    例:DNA(核酸記号)・感覚

    シンボル記号:学習過程をへて、脳内で一定の「意味表象」と物理・化学的に結合して意味
    表象を持つが、指示対象は持つ必要がない記号(指示対象を持つ場合、必ず意味表象を媒介する)。
    例:言語・心象

    (他の学者の用語法と違うので注意。吉田理論にふさわしい定義が採択されている)

    2)公正の社会学


    1. 小宮山はなぜ公正研究を選んだか

        人々の「自明性」が作られるしくみを知りたかった。
        第11回:「世界」の創造のしくみ
        第12回:自明性というプログラムのライフサイクル(生成・維持・変容・消滅)
            と相互連関の解明

        1991年国際公正観調査の調査員としての経験
           アンケート〜回答者は自分の回答が「当たり前」「共有されている」と考えている。
           しかし、回答にはかなりのバリエーションが見られる。

      共有されている(公である)と思われている正しさが、実はかなりバリエーションがある。
      →大変興味深く、また集団における意思決定において重要な“自明性”であると考えた。

           いくつかの文化の定義のエッセンス:「集団の成員によって共有されているなにものか」

          小宮山の文化の定義:「ある集団の成員によって共有されている」と考えられている意識
         (“客観的に”共有されていなくても構わないことに注意。〜小宮山の研究関心にあわせた定義)

          小宮山の情報の定義:ここでは狭義の情報を採用(人間レベルに限定)

          
    2. [komiyama 2000]における問い・仮説
      ・「能力平等-努力万能観:生まれつきの能力は誰でもほぼ同じで大差がなく、努力すれば誰でも能力
      を伸ばすことができ、努力すれば報われる」という意識は日本社会で共有されているのか?

      「共有されている」という知見がいくつかの歴史・事例研究で得られている[常吉.1992, 大川.1993,
       竹内.1995, 刈谷.1995, 今津・樋田(編)1997他]。しかし統計的な調査では明らかになっていない。
      また海外の教育研究者は日本の教育の特徴として指摘している。

      ・「能力平等-努力万能観」という意識が機会の不平等の問題を見え難くする効果があるのか?[刈谷.1995]

      仮説:能力平等-努力万能観を強く信じているほど機会の不平等を認知しない傾向がある。

    3. データ・方法 1997年全国公正観調査
         母集団:全国の有権者
         サンプリング:層化ニ段階無作為抽出
         ターゲットサンプル数:1800(120地点×15)
         有効サンプル数:1108(回収率61.6%)

      確証的因子分析
        潜在変数1:能力平等-努力万能観
          顕在変数 問16a・問16b・問16d

        潜在変数2:機会の平等観(貧困原因)
          顕在変数 問12e・問12f・問12g

        潜在変数3:機会の平等観(成功要因)
          顕在変数 問13e・問13f

      問16人々の能力や努力について、うかがいます。次の意見に関して、
      あなたはどのようにお考えですか。
        1.まったくそう思う        3.どちらかといえばそう思わない
        2.どちらかといえばそう思う    4.まったくそう思わない


       a(ア)生まれつきの能力は誰でもほぼ同じで、あまり差はない
       b(イ)たいていの人は頑張れば能力を伸ばせる
       d(エ)努力しさえすれば、結果はついてくる
      問12日本に貧しい人がいる原因がいくつか考えられています。次のそれぞれについて
        お答えください。

        1.つねに原因である        4.原因であることは少ない
        2.原因であることが多い      5.原因ではない
        3.時には原因である


      e(オ)特定の人々に対する偏見や差別があるから
      f(カ)機会が不平等だから
      g(キ)経済の仕組みに問題があるから

      問13いまの日本で社会的に成功するためには、次のようなことはどの位、有利な条件に
        なっていると思いますか。

        1.有利な条件になっている     3. あまり有利な条件になっていない
        2.やや有利な条件になっている   4. 有利な条件になっていない


       e(オ)コネがあること
       f(カ)親の社会的地位が高いこと

    4. 検証 3つの潜在変数の関係
      仮説から、以下のような分析結果が予想される。



      ・分析結果(パス図)




      仮説からの予測のいずれにも該当しない結果→能力平等-努力万能観を強く信じているほど
      機会の不平等を認知しない傾向がある、とはいえない。
       したがって以下の4パタンの人々がある程度の数、存在していると思われる。



       「能力平等-努力万能観を信じ、機会の不平等を認知しない人々」がどの程度
      いるのか、確認しよう。

      肯定的回答:選択肢 1 or 2 の回答

      狭義の能力平等-努力万能観の定義 問16a・問16b・問16dに肯定的回答
      広義の能力平等-努力万能観の定義 問16b・問16dに肯定的回答
      (広義:「生得的格差はあっても後天的努力でカバーできる程度」という人々も含める)

      否定的回答:選択肢 4 or 5 の回答

      狭義の機会平等観の定義「問12e・問12f・問12g」すべてに否定的回答または
                       「問13e・問13f」のいずれにも否定的回答
      広義の機会平等観の定義「問12e・問12f・問12g・問13e・問13f」のいずれかに否定的回答


    5. 分析結果2

      能力平等-努力万能観・機会の平等観(貧困原因)・機会の平等観(成功要因)
      それぞれの回答パタン






      広義・狭義の能力平等-努力平等観と広義・狭義の機会平等観



      狭義の能力平等-努力平等観と狭義の機会平等観を持つ人々〜10.3%
      広義・狭義の能力平等-努力平等観と広義・狭義の機会平等観〜44.6%


    6. 分析結果3

      世代(年齢)・教育年数・ジェンダー・家計所得と能力平等-努力平等観

      「能力平等-努力平等観」を持つ原因
      歴史・教育研究では教育とその変遷(世代)が関係していると言われている。

       2変数レベルの分析〜線形か?

        比較的年配の人々(50歳以上)は「能力平等-努力平等観」を信じている傾向がある。
        教育年数12年以下の人々は「能力平等-努力平等観」を信じている傾向がある。

       ・2変数の関係は、線形ではない。
       ・擬似相関の可能性がある。

       そこで「能力平等-努力平等観」(広義の定義)を従属変数、
      世代(年齢)・教育年数・ジェンダー・家計所得をダミー変数に変換し
      独立変数としてロジスティック回帰分析を行なう。



       60歳以上の人々は、「能力平等-努力平等観」(広義の定義)を信じているという結果。
      しかし世代が影響しているのか、年齢が影響しているのか、特定することは一時点での
      データからでは判断できない。
       もし、世代の影響だとしたら、「能力平等-努力平等観」を信じる人々は減っていくことが
      予想される。年齢の影響だとしたら「能力平等-努力平等観」は増えていくことが予想される。

    3)参考図書




    大川清丈. 1993. 「近代化と日本的『平等』観」. 『ソシオロジ』118:37-52.
    今津孝次郎・樋田大二郎編.1997.『教育言説をどう読むか』新曜社. 苅谷剛彦.1995.『大衆教育社会のゆくえ : 学歴主義と平等神話の戦後史』 中公新書.
    Komiyama, Satoshi. 2000. Perception of “effort,”“Ability,”and“Equal Opportunity”
        in Japanese SocietyJapanese Perception of Social Justice:How Do They figure
      out What Ought to Be
    Minsitry of Education, Sience, Sports and Culture
        Grant-in-Aid for Scientific Research(B) Report,(09410050).
    竹内 洋. 1995.『日本のメリトクラシー』 東京大学出版会.
    恒吉僚子. 1992. 『人間形成の日米比較』 中公新書.
    吉田 民人. 1999. 「大文字の第2次科学革命とその哲学:近代科学の転回と存在論の転回」
        石川昭・奥山真紀子・小林 敏孝[編]『サイバネティック・ルネサンス』工業調査会.



    なお講義に際、若干、内容を変更する可能性があります。了承してください。






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